トピックス
  2011年度トピックス

外注費と給与の区分(具体的事例@)(11.12.01)

消費税仕入税額控除95%ルールの改正(11.11.01)

消費税事業者免税点制度の改正(11.10.01)

雇用促進税制が創設されました(11.09.01)

災害に関する税務上の取扱いについて(所得税・相続税・贈与税)(11.08.01)

災害に関する税務上の取扱いについて(法人税)(11.07.01)
東日本大震災に係る義援金等に関する税務上の取扱い(11.06.01)
信用保証料率割引制度が見直しされます (11.05.01)
法人税率が引下げられます (11.04.01)
相続税の基礎控除額が引下げられます (11.03.01)
年少扶養控除廃止のシミュレーション (11.02.01)
2011年度税制改正大綱 (11.01.01)

外注費と給与の区分(具体的事例@)

  2009年12月に「外注費と給与の区分」にていて「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」という個別通達をご紹介させていただきましたが、最近、税務調査でこの通達と消費税基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)に関する源泉税・消費税の調査が増えてきたように感じます。
今回は、個別通達の解釈の具体例を紹介させていただきたいと思います(長くなるので2カ月に分けて紹介します)。

大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱い

問1 所得税の確定申告等に当たり、大工、左官、とび職等が建設、据付け、組立てその他これらに類する作業において、業務を遂行し又は役務を提供したことの対価として支払を受けた報酬に係る所得区分はどのように判定するのでしょうか。

(答)
  1.  事業所得とは、自己の計算において独立して行われる事業から生ずる所得をいうこととされていますので、例えば、請負契約又はこれに準ずる契約に基づく業務の遂行ないし役務の提供の対価は事業所得に該当し、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく役務の提供の対価は、事業所得に該当せず、給与所得に該当します。

  2.  したがって、大工、左官、とび職等が、建設、据付け、組立てその他これらに類する作業(以下「建設作業等」という。)において、業務を遂行し又は役務を提供したことの対価として支払を受けた報酬(以下「本件報酬」という。)に係る所得区分は、本件報酬が、請負契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのか、又は雇用契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのかにより判定することになります。

  3.  なお、雇用契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価として給与所得に該当する場合は、その給与等の支払をする者は、その支払いの際に、所得税の源泉徴収を行うことになります。
【参考】
○最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)
 およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得(同法27条1項、同法施工令63条12号)と給与所得(同法28条1項)のいずれに該当するかを判断するにあたっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。したがって、弁護士の顧問料についても、これを一般的抽象的に事業所得又は給与所得のいずれかに分類すべきものではなく、その顧問業務の具体的態様に応じて、その法的性格を判断しなければならないが、その場合、判断の一応の基準として、両者を次のように区別するのが相当である。すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。



「大工、左官、とび職等」の意義

問2 「大工、左官、とび職等」とは、具体的にどのような者をいうのでしょうか。

(答)
  1.  本通達でいう「大工、左官、とび職等」とは、日本標準職業分類(総務省)の「大工」、「左官」、「とび職」、「石工」、「板金作業者」、「屋根ふき作業者」、「塗装作業者」、「植木職、造園師」、「畳職」に分類する者その他これらに類する者をいいます(本通達1)。

【参考】
○日本標準職業分類(平成9年12月改定)(総務省)(抜粋)
 大分類G 農林漁業作業者
  中分類43 農業作業者
   小分類433 植木職、造園師
            植木の植込・手入、造園の造築の仕事に従事するものをいう。
 大分類T 生産工程・労務作業者
 T−1 製造・制作作業者
  中分類54 土石製品製造作業者
   小分類541 石工
            石工用機械又は手道具を用いて、石材の切断・表面研磨・像刻み・碑文彫り、
           石塔・石材・うす(臼)などの加工製作の仕事に従事するものをいう。
           石積の仕事に従事するものも含まれる。
  中分類55 金属加工作業者
   小分類554 板金作業者
            金切はさみ・つち(鎚)・簡単な切断機・曲げロール機などを用いて、金属薄板を切断・
           曲げ・絞り・成形する仕事、加工された金属薄板を組み合わせ、ハンダ・硬ろう(蝋)・
           ガス・電気で接着して仕上下げる仕事に従事するものをいう。 
  中分類72 その他の製造・製作作業者
   小分類723 塗装作業者
            塗料の調整・き(素)地作り(パテ拾い・めどめ・さび(錆)落しなど)・下地塗り・水どき・
           中塗り・上塗り・文字書きなどの仕事に従事するものをいう。はけ塗り・へら塗り・
           たんぽ塗り・吹付け・刷り込み・転写・まき(蒔)絵は(貼)りの仕事に従事するものも
           含まれる。
 T−3 採掘・建設・労務作業者
  中分類76 建設躯体工事作業者
   小分類762 とび職
            くい(杭)打・建方・足場組み・ひき家・家屋の解体・取り壊し・けた(桁)かけなどの
           仕事に従事するものをいう。
  中分類77 建設作業者(建設躯体工事作業者を除く)
   小分類771 大工
            家屋などの築造・屋内造作などの木工事の仕事に従事するものをいう。
   小分類773 屋根ふき作業者
            かわらふき・スレートかわらふき・土居ふきなどの屋根ふき又はふきかえの仕事に
           従事するものをいう。
   小分類774 左官
            土・モルタル・プラスタ・漆くい(喰)・人造石等の壁材料を用いて、壁塗りなどの仕事に
           従事するものをいう。
   小分類775 畳職
            畳の仕立て・はめ込み・畳表の裏返しの仕事に従事するものをいう。



契約によって所得区分が判定できないときの判定基準

問3 大工、左官、とび職等が建設、据付け、組立てその他これらに類する作業において、業務を遂行し又は役務を提供したことの対価として支払を受けた報酬に係る所得区分が、契約によって判定できないときは、どのように判定するのでしょうか。

(答)
  1.  大工、左官、とび職等が、建設作業等において支払を受けた本件報酬に係る所得区分は、本件報酬が請負契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのか、又は、雇用契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのかにより判定することになります。
      民法上、「雇用」とは、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約するもの、「請負」とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約するものとされています。
     業務の遂行又は役務の提供には種々の形態が存するところ、大工、左官、とび職等が、建設作業等において支払を受けた本件報酬に係る所得区分が、契約によって判定できない場合には、例えば、次の事項を総合勘案して判定することになります。
    @ 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
    A 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束
    (業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
    B 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する
    指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
    C まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として
    既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
    D 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。
    以下同じ。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。 

  2.  したがって、その個人の業務の遂行又は役務の提供について、例えば他人の代替が許容されること、報酬の支払者から時間的な拘束や指揮監督(業務の性質上当然に存在するものを除きます。)を受けないこと、引渡未了物件が不可抗力の為に滅失した場合等に、既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬について請求することができないこと及び役務の提供に係る材料又は用具等を報酬の支払者から供与されていないこと等の事情がある場合には、事業所得と判定することとなります。
【参考】
○民法(抄)
623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
632条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 



所得区分の判定基準(1)

問4 次に掲げるような場合は、「他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められる」場合に該当しますか。
@ 急病等により作業に従事できない場合には、本人が他の作業員を手配し、作業に従事しなかった日数に係る本件報酬も本人に支払われる場合(作業に従事した者に対する報酬は、本人が支払う。)
A 急病等により作業に従事できない場合には、報酬の支払者が他の作業員を手配し、作業に従事しなかった日数に係る本件報酬は当該他の作業員に支払われる場合

(答)
  1.  他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められることは、当該業務の遂行又は役務の提供の対価として受ける報酬に係る所得が事業所得に該当すると判定するための要素の一つとなります。これに対し、他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められないことは、当該所得が給与所得に該当すると判定するための要素の一つとなります。

  2.  事例@の場合は、本人が自己の責任において他の者を手配し、当該他の者が行った役務提供に係る報酬が本人に支払われるものであり、役務の提供を行った者が誰であるかにかかわらず、支払者から本人に報酬が支払われるものであることから、他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められています。
     一方、事例Aの場合は、支払者の責任において、他の者を手配し、他の者が行った役務提供に係る報酬が支払者から直接当該他の者に支払われるものであり、役務の提供を行った者に対してのみ報酬が支払われています。

  3. したがって、事例@の場合は、「他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められる」場合に該当し、事例Aの場合は、「他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められる」場合に該当しないことになります。
【参考】
○民法(抄)
625条第2項 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。 



所得区分の判定基準(2)

問5 次に掲げるような場合は、「報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く、以下同じ。)を受ける」場合に該当しますか。
@ 作業時間を午前9時から午後5時までとされている場合
 イ) 午後5時までに予定されている作業が終わった場合には予定されている作業以外の作業にも従事する。また、午後5時までに予定されている作業が終わらず午後5時以降も作業に従事した場合には午後5時以降の作業に対する報酬が加算されて支払われる。
  ロ)作業時間指定は近隣住民に対する騒音の配慮によるものであり、午後5時までに予定されている作業が終わった場合には、午後5時前に帰宅した場合でも所定の報酬の支払を受けることができる。 
A 作業の進行状況等に応じて、その日の作業時間を自らが決定できる場合

(答)
  1.  報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束を受けることは、本件報酬に係る所得が給与所得に該当すると判定するための要素の一つとなります。

  2.  事例@のイの場合は、作業の内容にかかわらず、午前9時から午後5時までの間、作業に従事したことに対して報酬が支払われる、すなわち、指定された時間作業に従事したことに基づいて報酬が支払われるものであることから、時間的な拘束を受けるものに該当します。
     一方、事例@のロ及び事例Aの場合は、作業時間に関係なく、作業内容に応じて報酬が支払われるものであることから、時間的な拘束を受けるものではありません。

  3.  したがって、事例@のイの場合は、「報酬の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受ける」場合に該当し、事例@のロ及びAの場合は、「報酬の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受ける」場合に該当しません。
     なお、事例@のロについては、騒音を発生する作業を行う場合に、近隣住民への配慮から作業時間が指定されているものであり、作業実施上の条件であることから、ここにいう時間的な拘束には当たりません。
【参考】
○最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)
 給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

○平成19年11月16日東京地裁(平成20年4月23日東京高裁、平成20年10月10日最高裁同旨)
 本件各支払先による労務の提供及びこれに対する原告による報酬の支払は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、原告との関係において空間的(各仕事先の指定等)又は時間的(基本的な作業時間が午前8時から午後5時までであること等)な拘束を受けつつ、継続的に労務の提供を受けていたことの対価として支給されていたものと認めるのが相当である。
 したがって、…本件各支払先に対する本件支出金の支払は、所得税法28条1項に規定する給与等に該当するものと認めることができる。



所得区分の判定基準(3)

問6 次に掲げるような場合は、「作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く、以下同じ。)を受ける」場合に該当しますか。
@  現場監督等から、作業の具体的内容・方法等の指示がなされている場合
A  指示書等の交付によって、通常注文者が行う程度の作業の指示がなされている場合
B  他職種との工程の調整や事故の発生防止のために、作業の方法等の指示がなされている場合

(答)
  1.  作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受けることは、本件報酬にかかかる所得が給与所得に該当すると判定するための要素の一つになります。

  2.  事例@の場合、報酬の支払者(現場監督等)から具体的内容・方法等の指示を受け、作業に従事するものであることから、指揮監督を受けていると認められます。
     事例Aの場合には、具体的な内容や方法は本人に委ねられているものであることから、指揮監督を受けていないと認められます。
     事例Bの場合には、他職種との工程の調整や事故の発生防止のために作業の方法等を指示するものであり、業務の性質上当然に存在する指揮監督であることから、本通達にいう報酬の支払者からの指揮監督には当たりません。

  3. したがって、事例@の場合は、「作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受ける」場合に該当し、事例A及びBの場合は、「作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受ける」場合に該当しません。
【参考】
○昭和56年3月6日京都地裁(昭和57年11月18日大阪高裁同旨)
 給与所得に該当するか否かは、既にみたとおり、労務の提供が使用者の指揮監督に服してなされているか、労務提供における危険と計算は誰が負っているかを基準に判断すべきであり、多種多様な給与所得者について労務提供における処遇上の差異があるからといって、その処遇が充分でない者の所得を給与所得でないとする根拠とはなりえない。
[認定]
 (一)健康保険、失業保険、厚生年金保険の加入資格、職員組合、共済組合等の組合員資格のいずれをも有しない、(二)就業規則が適用されない、(三)専任教員についての賃金規則、退職金規定も適用されない、…(七)夏季、冬季の一時金が支給されないとの勤務形態、処遇にあること…が認められる。
消費税仕入税額控除95%ルールの改正


  平成23年度の税制改正で、消費税の仕入税額控除の改正があり、課税売上高が5億円を超える事業者は、課税売上割合が95%以上の場合でも課税仕入れに係る消費税額の全額を控除できなくなりました。よって、課税売上高が5億円超の事業者の仕入税額控除の計算は個別対応方式か一括比例配分方式のいずれかの有利選択となりました。
 また、この改正は平成24年4月1日以後に開始する課税期間から適用されます。つまり、3月決算法人の場合は24年度から、個人事業者の場合は25年度分からとなります。

例) 課税売上高が5億円超の事業者の場合
@課税標準額に対する消費税額 
A課税売上げにのみ要する課税仕入れ等の税額
B非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等の税額
C共通して要する課税仕入れ等の税額     
【課税売上割合95%】
【80,000千円】
【51,200千円】
【3,200千円】
【9,600千円】

改正前 A +B+C=64,000千円
@ −64,000千円=16,000千円
∴ 16,000千円
改正後 (1)個別対応方式
A+C×95%=60,320千円
(2)一括比例配分方式
(A+B+C)×95%=60,800千円
(1)<(2) ∴60,800千円
@−60,800千円=19,200千円
∴19,200千円
※例なので非常に簡便にしています。

 例では改正前の納付税額が16,000千円に対し改正後では19,200千円になり、その差は3,200千円になります。大規模企業のように課税売上げが大きく、課税売上割合が95%以上の企業の場合は、この差は多額になると思われます。また、課税売上に要するもの、非課税売上に要するもの、共通して要するものの分類などを行っていなかった企業に関してはその分類も必要になってくるので注意が必要です。

担当:櫻井 賢宏

消費税事業者免税点制度の改正

  平成23年度の税制改正で、今まで基準期間における課税売上高が1000万円以下である事業者は納税義務が免除、つまり免税事業者となっていましたが、平成25年1月1日以後開始する個人事業者のその年又は法人のその事業年度から前期の上半期における課税売上高及び給与の支払総額が1000万円を超えるときは課税事業者となることとされました。

例)H23年1/1設立新設法人(設立第一年度、第二年度共に事業年度開始の日における資本金額は1000万円未満であり調整対象固定資産の課税仕入れがなく、課税事業者選択届出書の提出がない)の場合

【12月決算法人】


 例の基準期間のない新設法人(事業年度開始の日における資本金額が1000千万未満で、調整対象固定資産の課税仕入れがなく、課税事業者選択届出書の提出がないことが前提)の場合は、改正前は設立初年度の課税売上高が1000万円を超えない限り設立3年目までは免税事業者でしたので消費税を納める義務はありませんでした。
  しかし、改正後は設立2年目の上半期の課税売上高及び支払給料の総額がいずれも1000万円を超えるため、設立3年目は課税事業者となり、消費税を納めることになります。

担当:櫻井 賢宏

雇用促進税制が創設されました

平成23年度の税制改正で、雇用の維持・促進を図る目的として雇用促進税制が創設されました。雇用者数の増加に応じて税額控除できるもので、事業規模拡大を検討している企業にとって有効な制度となります。
 (以下は、法人について記載していますが個人事業者についても適用があります)

<制度の概要>
区  分 資本金1億円超の法人等 中小企業者等
対象法人 青色申告法人で公共職業安定所長に雇用促進計画の届出を行った法人
適用要件 雇用保険一般被保険者数が対前年度比で下記@,Aの両方の要件を満たすことなどについて公共職業安定所長の確認を受けた場合(詳細は下記参照)
@10%以上増加 @10%以上増加
A5人以上増加 A2人以上増加
控除額 増加一般被保険者数×20万円
控除限度額 法人税額×10% 法人税額×20%
適用期間 平成23年4月1日〜平成26年3月31日の開始事業年度

<適用要件の詳細>
対象となる雇用者は、法人の役員とその親族等と、使用人兼務役員以外の一般被保険者に該当する者で、適用要件は以下の5つの内容となっています(設立1年目、解散・清算事業年度は不適用)。
1.前年度と当年度で法人の都合による離職者がいないこと
2.前年度末の雇用者数よりも5人以上(中小企業者等は2人以上)増加していること
3.基準雇用者割合(=(当年度末雇用者数−前年度末雇用者数)/前年度末雇用者数)が10%以上であること
4.当年度の給与等支給額が比較給与等支給額
  (=前年度給与等支給額+前年度給与等支給額×基準雇用者割合×30%)以上であること
5.風俗営業等を行っていないこと

<申請手続>
この税額控除の適用を受けるためには、適用要件を証明するための「雇用促進計画」を作成し、同計画の達成状況を確認した書類の写しを確定申告書に添付する必要があります(措規20の7@)。
同計画の達成状況の確認に関する手続は、厚生労働省の業務取扱要領にて示されており、法人の納税地を管轄するハローワークに、@事業年度開始2か月以内に、支店・支社の状況も含めて雇用者の目標増加数を示した同計画の書類を提出し、A事業年度終了後2か月以内に、当年度の雇用者増加数などの要件を充足した内容を追記した同計画の書類を再度提出することとされています。
このうち@の目標増加数の同計画の提出は、同制度の施行時期等の影響により、経過的取扱いとして、23年4月1日から8月31日までの開始事業年度について23年10月31日まで受け付けることとされています。
またAの達成状況については、ハローワークや各都道府県労働局が確認作業を行うが2週間から1月掛かる見込みとのことです。申告期限に間に合わせるため、早めの対応が必要となりそうです。
なお,雇用促進計画の様式は、厚生労働省のホームページやハローワークにて入手可能です。

(厚生労働省、雇用促進税制ホームページ)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/koyousokushinzei.html
災害に関する税務上の取扱いについて(所得税・相続税・贈与税)

先月は「法人に関わる災害に関する税務上の取扱い」について紹介させていただきましたので、今月は「個人(所得税・相続税・贈与税)に関わる災害に関する税務上の取扱い」について紹介します。 

【所得税関係】
(1) 個人が支払を受ける災害見舞金
 個人が支払を受ける災害見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、課税しないものとされています。(所基通9−23)

(2) 低利又は無利息により生活資金の貸付けを受けた場合の経済的利益
 災害により臨時的に多額な生活資金を要することとなった役員又は使用人が、使用者からその資金に充てるために低利又は無利息で貸付けを受けた場合に、その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける利息相当額の経済的利益は、課税しなくて差し支えないこととされています。(所基通36−28(1) )

(3) 被災事業用資産の損失の繰越し
 事業を営む個人のその年の前年以前3年内の各年において生じた純損失の金額のうち、棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係るもの(被災事業用資産の損失の金額)がある場合には、その損失の生じた年分が青色申告書を提出しなかった年分であっても、その被災事業用資産の損失の金額に相当する金額は、その年分の総所得金額等の計算上控除することとされています。(所得税法第70条第2項)

【相続税・贈与税関係】
(1) 農地等に係る納税猶予の特例の継続適用
 相続税又は贈与税における「農地等に係る納税猶予の特例」の適用を受けている農地等が、農業に使用されなくなった場合には、納税が猶予されていた一定の税額を納付しなければならないこととされています。
 しかし、その農地等が、例えば建築資材の置き場に使用されるなど、災害のためにやむを得ず一時的に農業に使用されなくなった場合には、その土地は農業に使用しているものとして特例の適用が継続されます。

災害に関する税務上の取扱いについて(法人税)

先月に引き続いて、今月も震災関連のトピックスです。今月は「法人に関わる災害に関する税務上の取扱い」について紹介します。 

(1) 取引先に対する災害見舞金等
 法人が、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与等のために要した費用は、交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。(措通(法)61の4(1) −10の3)

(2) 取引先に対する売掛金等の免除等
 法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金等の債権を免除する場合には、その免除することによる損失は寄附金又は交際費等以外の費用として損金の額に算入されます。
 また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合及び災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。(法基通9−4−6の2措通(法)61の4(1) −10の2)

(3) 取引先に対する低利又は無利息による融資
 法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利又は無利息による融資を行った場合における通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄附金に該当しないものとされます。(法基通9−4−6の3)

(4) 自社製品等の被災者に対する提供
 法人が、不特定又は多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等に該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金の額に算入されます。(法基通9−4−6の4措通(法)61の4(1) −10の4)

(5) 災害による損失金の繰越し
 法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額のうち、棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係るもの(災害損失欠損金額)がある場合には、その事業年度が青色申告書を提出しなかった事業年度であっても、その災害損失欠損金額に相当する金額は、その各事業年度において損金の額に算入されます。(法人税法第58条第1項)
東日本大震災に係る義援金等に関する税務上の取扱い


 この度の東日本大震災により被害を受けた皆様方に、心からお見舞い申し上げます。すでに被災地への支援として、義援金を送った方も多いかと思いますが、今回は東日本大震災に係る義援金等に関する税務上の取扱いについて取り上げます。

1.個人の方が義援金等を支出した場合の取扱い

個人の方が義援金等を支出した場合には、その義援金等が国又は地方公共団体に対する寄附金や財務大臣が指定するものなど一定のものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。(所法78@A)

 特定寄附金を支出した場合、次の算式で計算した金額が、所得の金額から控除されることになります。


(注) 
・震災関連寄附金以外の特定寄附金の額の合計額は、所得金額の40%相当額が限度です。
・震災関連寄附金以外の特定寄附金の額の合計額及び震災関連寄附金の額の合計額は、所得金額の80%相当額が限度です。
◎「震災関連寄附金」とは、次に掲げる義援金等をいいます。

@ 平成23年3月11日から平成25年12月31日までの期間(以下「指定期間」といいます。)内に国に対して直接寄附した義援金等

A 指定期間内に著しい被害が発生した地方公共団体(※)に対して直接寄附した義援金等

B 日本赤十字社の「東日本大震災義援金」口座へ直接寄附した義援金、新聞・放送等の報道機関に対して直接寄附した義援金等で最終的に国又は著しい被害の発生した地方公共団体(※)に拠出されるもの

C 社会福祉法人中央共同募金会の「東日本大震災義援金」として直接寄附した義援金等

D 社会福祉法人中央共同募金会の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」として直接寄附した義援金等(平23.3.15財務省告示第84号)

E 認定NPO法人に対し、東日本大震災の被災者支援活動に特に必要な資金に充てるために行った寄附金(その募集に際し、国税局長の確認を受けたものに限ります。)(平23.3.15財務省告示第84号)

F @からE以外の義援金等のうち、寄附した義援金等が、募金団体を通じて、最終的に国又は著しい被害が発生した地方公共団体(※)に指定期間内に拠出されることが明らかであるもの

※ 「著しい被害が発生した地方公共団体(※)」とは、被災者生活再建支援法の適用団体とされており、具体的には、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県の各県(県内の市町村も含みます。)、長野県栄村、新潟県十日町市、新潟県津南町をいいます。

 また、上記D及びEの義援金等は、「特定震災指定寄附金」として、寄附金控除(所得控除)との選択により、税額控除の適用を受けることもできます。(震災特例法8A)

 特定震災指定寄附金を支出した場合、次の算式で計算した金額を、所得税の額から控除することができます。

(注) 特定震災指定寄附金の額の合計額は所得金額の80%相当額が限度です。
 税額控除額は、その年分の所得税の額の25%相当額が限度です。

2.法人が義援金等を支出した場合の取扱い

 法人が義援金等を支出した場合には、その義援金等が「国又は地方公共団体に対する寄附金」(国等に対する寄附金)、「指定寄附金」に該当するものであれば、支出額の全額が損金の額に算入されます。(法法37B)

 「国等に対する寄附金」には次の@AB又はEに掲げる義援金等が、「指定寄附金」には次のC又はDに掲げる義援金等が該当します。

@ 国又は地方公共団体に対して直接寄附した義援金等

A 日本赤十字社の「東日本大震災義援金」口座へ直接寄附した義援金、新聞・放送等の報道機関に対して直接寄附した義援金等で最終的に国又は地方公共団体に拠出されるもの

B 社会福祉法人中央共同募金会の「東日本大震災義援金」として直接寄附した義援金等

C 社会福祉法人中央共同募金会の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」として直接寄附した義援金等(平23.3.15財務省告示第84号)

D 認定NPO法人に対し、東日本大震災の被災者支援活動に特に必要な資金に充てるために行った寄附金(その募集に際し、国税局長の確認を受けたものに限ります。)(平23.3.15財務省告示第84号)

E @からD以外の義援金等のうち、寄附した義援金等が、募金団体を通じて、最終的に国又は地方公共団体に拠出されることが明らかであるもの
    

3.義援金等を支出した者が、寄附金控除、税額控除(個人の方)又は損金算入(法人)の
  適用を受けるための手続き


@所得税
寄附金控除の適用を受ける場合には、確定申告書に寄附金控除に関する事項を記載するとともに、義援金等を支出したことが確認できる書類(例えば、国や地方公共団体の採納証明書、領収書、受領証、募金団体が発行する預り証など)を確定申告書に添付するか、確定申告書を提出する際に提示する必要があります。
 特定震災指定寄附金について、税額控除の適用を受ける場合には、確定申告書にこの控除の適用を受ける旨の記載があり、かつ、その金額の計算に関する明細書及び特定震災指定寄附金を受領した法人が、当該寄附金が被災者支援活動の資金に充てられるものである旨等の記載をした受領証を添付する必要があります。

A法人税
確定申告書の別表14(2)「寄附金の損金算入に関する明細書」の「指定寄附金等に関する明細」に寄附した義援金等に関する事項を記載し、義援金等を支出したことが確認できる書類を保存する必要があります。

(注) 日本赤十字社・中央共同募金会の「東日本大震災義援金」口座、国・著しい被害が発生した地方公共団体の専用口座への寄附については、振込票の控(受領証)等をもって寄附したことを証する書類として差し支えありません。
信用保証料率割引制度が見直しされます

平成18年4月に創設された、信用保証協会において保証料率を割引する「中小企業会計割引制度」が、一部見直されることとなりました。

1.中小企業会計割引制度について
会計割引制度は、中小企業の会計に関する指針(以下「中小指針」という)に準拠して作成される中小企業の計算書類について、税理士、税理士法人、公認会計士及び監査法人(以下「税理士等」という)により中小指針の準拠を確認するチェクリストが提出された場合において、信用保証協会の保証料率0.1%の割引が認められる制度です。
会計割引制度の適用は、平成18年4月の制度創設時では、チェックリストの添付によって認められ、平成19年4月の制度見直し後では、チェックリスト中の15項目のうち1項目以上の準拠によって認められることとされています。

2.見直しについて
制度開始から5年を迎え中小企業の会計の質の向上を促す効果を高め、制度の適正化を図るため、以下の見直しが行われます。

(1)『チェックリスト<表1>』の全部準拠
@信用保証協会は、『チェックリスト』の15項目すべてが中小指針に準拠していることをもって会計割引制度を適用します。
※ただし、当該中小企業が保有しない資産の項目については除外します。
A『チェックリスト』の15項目すべてについて中小指針に準拠している旨の記載があるにもかかわらず、故意・過失を問わず事実と異なる記載が認められると信用保証協会が判断する場合は、会計割引制度の利用を認めないこととします。

(2)事実と異なる記載に対する一時利用停止措置
@故意・過失を問わず事実と異なる記載と信用保証協会が認める『チェックリスト』が、複数回にわたり同一の税理士等から提出された場合において、当該税理士等から提出される『チェックリスト』の添付をもって、計算書類の信頼性向上に寄与することが認められないと信用保証協会が判断するときは、当該税理士等が確認した『チェックリスト』については、会計割引制度の利用を1年間認めないこととします。
A各信用保証協会は、会計割引制度の利用を認めないこととされた税理士等に対し、当該割引制度の利用を認めない旨を、理由を付記して通知することとし、併せて当該税理士等の所属税理士会に対して当該通知の写しを送付します(※)。
※一時利用停止措置に対する照会手続きは日税連及び全国信用保証協会連合会において別途定める こととしています。
B各信用保証協会は、前記通知について全国信用保証協会連合会に対しても行い、情報を共有します。
全国信用保証協会連合会は、当該情報を他の信用保証協会と共有することができることとします。
C前記通知内容について、各信用保証協会及び全国信用保証協会連合会は、必要に応じ、中小企業庁に連絡することとします。

<表1>チェックリスト(15項目抽出)
勘定科目 指針の内容の確認事項
金銭債権
(貸倒損失・
貸倒引当金)
法的に消滅した債権又は回収不能な債権がある場合、これらについて貸倒損失を計上し債権金額から控除したか。
取立不能のおそれがある金銭債権がある場合、その取立不能見込額を貸倒引当金として計上したのか。
有価証券 売買目的有価証券がある場合、時価を貸借対照表価額とし、評価差額は営業外損益としたか。
時価が取得原価より著しく下落し、かつ、回復の見込みがない市場価格のある有価証券(売買目的有価証券を除く。)を保有する場合、これを時価で評価し、評価差額は特別損失に計上したか。
その発行会社の財政状態が著しく悪化した市場価格のない株式を保有する場合、これについて相当の減額をし、評価差額は当期の損失として処理したか。
棚卸資産 棚卸資産の期末における時価が帳簿価額より下落し、かつ、金銭的重要性がある場合には、
時価をもって貸借対照表価額としたか。
経過勘定 前払費用と前払金、前受収益と前受金、未払費用と未払金、未収収益と未収金は、それぞれ
区別し、適正に処置したか。
固定資産 減価償却は経営状況により任意に行うことなく、継続して規則的な償却を行ったか。
予測することができない減損が生じた固定資産がある場合、相当の減額をしたか。
引当金 将来発生する可能性の高い費用又は損失が特定され、発生原因が当期以前にあり、かつ、設定金額を合理的に見積ることができるものがある場合、これを引当金として計上したか。

退職給付債務

確定給付型退職給付制度(退職一時金制度、厚生年金基金、適格退職年金及び確定給付企業年金)を採用している場合は、退職給付引当金を計上したか。
中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度及び確定拠出型年金制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理したか。
収益・費用
の計上
収益及び費用につては、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用を計上したか。
原則として、収益については実現主義により、費用については発生主義により認識したか。
上記以外の「中小企業の会計に関する指針」の項目について適用状況を確認し、「中小企業の会計に関する指針」に拠って表示(注記を含む)を行ったか。

3スケジュール
前記運用の変更は、平成23年4月1日から行われます(平成23年4月1日以降に終了する事業年度の計算書類により適用されます)。
法人税率が引下げられます

注)下記の内容は税制改正法案が成立した場合のものであることをご了承ください

平成23年4月1日以後に開始する事業年度に適用される法人税の税率が引き下げられることとなりました。
中小法人の年間所得800万円以下の法人税・住民税・事業税(地方法人特別税含む)の実効税率は22.60%となります。
大法人および中小法人の年間所得800万円超の実効税率は35.64%となります。 

改正の内容
平成23年4月1日以後に開始する事業年度に適用される法人税の税率は以下のとおりとなります。改正後のカッコ内は,平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されます。
  現   行 改 正 後
    年800万円以下   年800万円以下
普通法人 30% 25.5%
中小法人 30% 22%(18%) 25.5% 19%(15%)
公益法人等,協同組合等(単体)及び
特定の医療法人(単体)
22% (18%) 19% (15%)
協同組合等(連結)及び
特定の医療法人(連結)
23% (19%) 20% (16%)
特定の協同組合等の
特例税率(年10億円超)
26% 22%
上記の改正により、個人に所得を配分するよりも、法人で内部留保して納税するほうがトータル的に節税になるのではないかという話も聞かれますが、実際どのようになるのかを具体例を用いて検証してみました。

具体例
役員報酬控除前の法人課税所得 10,000,000円の場合(資本金1,000万円、法人税住民税事業税の実効税率は22.60%で計算)

1.役員報酬を10,000,000円とした場合
(所得控除は基礎控除38万円、配偶者控除38万円、社会保険料控除114万円とする)
 ※簡便計算のため、住民税の所得控除も所得税と同様の金額としています(以下同じ)。
@ 法人にかかる税金→住民税均等割70,000円のみ
A 個人(役員)にかかる税金→752,500円(所得税)+590,000円(住民税)=1,342,500円
法人@+役員A=1,412,500円

2.役員報酬を5,000,000円とした場合
(所得控除は基礎控除38万円、配偶者控除38万円、社会保険料控除67万円とする)
@ 法人にかかる税金→1,200,000円(住民税均等割70,000円含む)
A 個人(役員)にかかる税金→105,500円(所得税)+203,000円(住民税)=308,500円
法人@+役員A=1,508,500円

1<2 差額は96,000円

上記の具体例からわかるとおり、役員報酬を控除する前の所得が10,000,000程度ならば、全額役員報酬として個人に所得配分したほうがトータルでみれば有利になることがわかります(ほとんど差はありませんが)。
ただし、社会保険料を考慮すると労使合わせて1のほうが2より95万円くらい負担が大きくなるので、2のほうが有利となります。 上記はほんの一例なので、今回の改正による影響を、それぞれの会社ごとに検討してみることをお勧めいたします。
相続税の基礎控除額が引下げられます

平成23年4月1日以後の相続について、基礎控除額が引き下げられることとなりました。

改正の内容

  基礎控除額
改正前 5,000万円+1,000万円×法定相続人数
改正後 改正後 3,000万円+600万円×法定相続人数

具体例

  相続人が配偶者と子2人で、法定相続分で相続したものとした場合、改正前後の相続税額を比較すると次のようになります。
課税価格 改正前 改正後 増加額
5,000万円 0円 10万円 10万円
1億円 100万円 315万円 215万円
3億円 2,300万円 2,860万円 560万円
10億円 1億6,650万円 1億7,370万円 720万円
20億円 4億0,950万円 4億1,750万円 800万円
※上記は税制改正大綱の内容であり、大綱どおりに法案が可決された場合の改正となりますのでご注意ください。
年少扶養控除廃止のシミュレーション

平成23年から年少扶養控除が廃止になりました。年少扶養控除とは15歳以下の扶養家族1人につき38万円の所得を控除するというものです。廃止による影響は下記のシミュレーションのとおりとなります。高所得者は子ども手当をもらっても、実質増税ということになります。

扶養控除廃止のシミュレーション

単位:万円。民主党政権が誕生した2009年とその後に決めたすべての制度改正が反映される
2014年度を比べ、年間手取り額の増減を試算。夫が会社員、妻が専業主婦、子どもが1人

年収 300万円 500万円 700万円 1000万円 1600万円 2000万円
子どもが3歳未満
子ども手当支給額 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0
所得税増税分 -1.9 -3.2 -7.2 -7.6 -14.2 -20.8
住民税増税分 -3.3 -3.3 -3.3 -3.3 -3.8 -5.8
児童手当廃止分 -12.0 -12.0 -12.0 0 0 0
合  計 6.8 5.5 1.5 13.1 6.0 -2.6
子どもが3歳から小学生まで
子ども手当支給額 15.6 15.6 15.6 15.6 15.6 15.6
所得税増税分 -1.9 -3.2 -7.2 -7.6 -14.2 -20.8
住民税増税分 -3.3 -3.3 -3.3 -3.3 -3.8 -5.8
児童手当廃止分 -6.0 -6.0 -6.0 0 0 0
合  計 4.4 3.1 -0.9 4.7 -2.4 -11.0
中学生
子ども手当支給額 15.6 15.6 15.6 15.6 15.6 15.6
所得税増税分 -1.9 -3.2 -7.2 -7.6 -14.2 -20.8
住民税増税分 -3.3 -3.3 -3.3 -3.3 -3.8 -5.8
合  計 10.4 9.1 5.1 4.7 -2.4 -11.0
成年扶養控除に上限
成年1人を扶養
所得税増税分 0 0 -7.2 -7.6 -14.2 -20.8
住民税増税分 0 0 -3.3 -3.3 -3.8 -5.8
合  計 0 0 -10.5 -10.9 -18.0 -26.6
※第一生命経済研究所と大和総研の試算をもとに作成
民主党が掲げる税制改革の論点

2011年度税制改正大綱が発表されました。経済活性化や雇用拡大を狙って、法人税率を12年ぶりに実効税率で5%引き下げる一方、個人向け税制では、所得税の控除縮小など、高所得者に多くの負担を求める内容となりました。なお、消費税増税を含む抜本改革は先送りされました。

個人増税4900億円 法人減税5800億円 実質減税900億円 (国税分・財務省試算)

2011年度税制改正大綱ポイント
増税 減税 中立、変わらず  


 
手取り 給与所得控除を縮小
(所得税・住民税)

年収1500万円超は245万円で頭打ち
高額報酬役員は控除額をさらに最大2分の1まで圧縮
成年扶養控除(同) 年収568万円超は廃止・縮減
扶養家族が学生・障害者の場合は継続
退職金の優遇税制を
縮小
(同)
勤続5年以下の役員で優遇廃止
配偶者控除(同) 縮小は見送り
証券優遇税制(同) 本則20→10%の優遇を2年延長
寄付控除(同) 税額から寄付額の最大50%を控除
相続
財産
相続税 基礎控除「5000万円+1000万円×法定相続人数」を「3000万円+600万円×法定相続人数」に
最高税率を50→55%に
贈与税 一部税率引き下げ。 孫にも贈与可能に

 
収益・
投資
法人課税の税率
(国税・地方税)

法人税(国税)を30%→25.5%に
地方税を合わせた実効税率を5%引き下げ
中小企業の軽減税率を18→15%に
雇用促進税制 雇用を10%以上増やした企業は、1人20万円を税額控除
グリーン税資減税 環境投資に対し取得価格の3割を特別償却
欠損金の繰り越し
控除制度
控除前の所得の8割に控除を制限
減価償却制度の
見直し
投資初期の償却額を縮小
研究費開発減税 控除限度額を法人税額の30→20%に
貸倒引当金の
適用業種の縮小
銀行や保険、中小企業に限定
租税特別措置の見直し 国税50項目、地方税64項目を廃止・縮減
環境
対策
環境税の創設 原油・石油製品は1キロリットル当たり760円増
来年10月から2015年にかけて段階的に引き上げ
※2010年12月17日の日本経済新聞より引用