収益認識会計基準と税務対応
2018年3月30日、企業会計基準委員会(ASBJ)により「収益認識に関する会計基準」が公表されました。国内外の企業間の比較性の観点から、国際基準である国際財務報告基準(IFRS)で2018年度から適用される新基準に対応させるために定められました。
当基準は、収益を計上する「時期」と「金額」が従来とは異なるものとなっており、法人税法でも当基準の創設を踏まえ、2018年度税制改正で「収益の額」が定められました。
そこで今回は当基準の概要と税務上の対応について簡単にご説明いたします。
収益認識会計基準の概要
新基準では収益を認識する為に、次の5つのステップを経て収益を認識します。
ステップ①:顧客との契約を識別する。
ステップ②:契約における履行義務を識別する。
ステップ③:取引価格を算定する。
ステップ④:契約における履行義務に取引価格を配分する。
ステップ⑤:履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。
以上のような流れにより、財やサービスを顧客に移転した際(履行義務の充足)に収益が認識され、計上することになります。
実務的な影響として、「履行義務」単位での収益認識が求められるようになるため、従来の契約では一つの取引として認識していた収益が、新基準によると複数の「履行義務」に分けられ、従来とは異なる「時期」と「金額」を計上しなくてはならないケースが出てくることが考えられます。
また、それぞれのステップにおいても認識する基準の詳細が定められ、従来認められていた処理が認められなくなるケースが多く考えられます。
(認められなくなると考えられる処理の一例)
従来の処理 | 新基準による処理 |
ポイント引当金の計上 | ポイント部分の収益の計上を繰り延べる |
返品調整引当金の計上 | 返金額を見積り、収益を認識しない |
売上リベートを販売費に計上 | 変動部分を見積り、収益を認識しない |
返金を要しない入会金等の入金時の一括計上 | サービスが提供されたときに収益を認識する |
割賦販売における割賦基準による収益計上 | 商品の支配が顧客に移転した時点で認識する |
税込方式による税込価格での計上 | 税抜方式のみ認められる |
対象となる法人
上場企業・非上場企業を問わず、適用されることになります。
中小企業については、「中小企業の会計に関する指針」が用いられるため、即時強制適用とはなりませんが、今後この指針が新基準に合わせ見直しがされる可能性もあるので注意が必要です。
適用開始時期
平成33年4月1日以降開始する事業年度から適用となります。
また、早期適用として、平成30年4月1日以降開始する事業年度から適用することができます。
法人税法との対応
2018年度税制改正でも当基準の創設を踏まえ、「収益の計上時期」「収益の計上額」を新たに定め、会計上の新基準での収益の認識を容認し、おおよそ対応させることになりました。
※一部容認されない部分については、会計上の収益認識と税務上の収益認識に相違が出るため、税務調整が必要となります。(新基準では値引き、割戻し、返品、回収不能など、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合、その金額を見積り、その部分を増減して収益を認識することとなるが、このうち返品と回収不能については、法人税法ではそれを容認しないことが示されました)
消費税法との乖離
現在のところ、消費税法については新基準に伴う改正の動きはありません。このため、消費税における課税売上の認識は従来通りとなり、収益認識の「時期」や「金額」が、会計及び法人税との乖離が生じることになります。
場合によっては現行の会計システムでは対応ができなくなる可能性もあるため、今後の税制改正や通達の動きには注視が必要です。
担当:田村 大介