事業承継税制の特例の創設と拡充
平成30年度税制改正で『事業承継税制の特例の創設と拡充』がされましたので、ご紹介いたします。
概要
事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」について、改正前のものを原則的な制度として残したうえで、今後5年以内に※「特例承継計画」を提出し、10年以内に実際に承継を行うものを対象とした「特例」を創設するなど、抜本的な見直しがされました。
※「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成する、「後継者」や「承継時までの経営の見通し」が記載された計画
①対象株式数の上限の撤廃及び納税猶予割合の拡大
先代経営者から贈与・相続により取得した非上場株式等のうち、贈与税・相続税の納税猶予となる対象の株式数・猶予割合は、「特例承継計画」を提出することにより、以下の表のとおりとなります
改正項目 | 原則 | 特例 | ||
贈与税 | 相続税 | 贈与税 | 相続税 | |
適用対象株式数の上限 | 議決権株式総数の3分の2に達するまで | 議決権株式総数のすべて | ||
納税猶予割合 | 100% | 80% | 100% | 100% |
②「特例」における対象者の拡大
「特例承継計画」を提出することにより、対象者が以下のとおり拡大されます。
原則 「一人の先代経営者」から「一人の後継者」への親族間の贈与等のみが対象
↓
特例 「(親族外の者を含む)複数の株主」から「三人までの(代表権を持つ)後継者」への贈与等が対象
③雇用確保要件の事実上の撤廃
事業承継後5年間の雇用者数の平均が8割に満たない場合について、以下のとおり見直しがされました。
改正前 → 猶予された税額を全額納付
改正後 → 猶予を継続する ※ただし、満たせなかった理由について、「認定経営革新等支援機関」の意見が記載された書類を提出。
④経営環境の変化に応じた減免制度の創設
後継者が自主廃業や売却を行う際、改正前は、事業承継時の株価を基に贈与税額・相続税額を算定し、納税する必要がありましたが、「特例」による事業承継後に、「経営環境の変化を示す一定の要件」を満たす場合、納税猶予とされていた税額との差額が減免されることとなりました。
「経営環境の変化を示す一定の要件」を満たす場合とは、次のいずれかに該当することをいう
① 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社が赤字 |
② 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社の売上高が、その年の前年に比べて減少 |
③ 直前の事業年度終了の日における有利子負債(金融機関からの借り入れなど)の額が、その日の属する事業年度の売上高の6ヶ月分以上 |
④ 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落 |
⑤ 特例後継者が、特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由があるとき |
⑤相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
事業承継税制の適用を受ける場合における相続時精算課税制度の適用範囲は、②「特例」における対象者の拡大に対応するかたちで、以下の表のとおり拡大されました。
適用範囲 | |
改正前 | 60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫への贈与 |
改正後 | 【改正前】に加えて、贈与者の子や孫以外の(代表権を有する)者への贈与 |
今回の改正は、事業承継税制の適用対象となる要件を緩和したうえで、税制適用後の納税リスクを軽減し、高齢化が進む中小企業経営者の事業承継を推し進めることを目的とした改正となっています。
担当:橋本 拓也